レナード・サスキンドの古典力学第1講で意外なのは、\(F=ma\) ではなく、一枚のコインから話が始まることだ。
コインを使うと、力学は二つの問いにまで絞られる。何を「状態」と呼ぶのか。そして、どの規則がその状態を次の時刻へ運ぶのか。この二つが明確になって初めて、位置、速度、ベクトル、微分方程式が一つの枠組みに収まる。
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状態と法則
テーブルにコインを置き、表と裏だけを考える。次のような単純な法則を決めよう。
- 表は裏になる。
- 裏は表になる。
表から始めると、履歴は
となる。初期条件は履歴の出発点を示し、法則は一つの状態から次の状態への進み方を示す。この二つを合わせれば、状態の列が決まる。
この小さな模型は、状態に十分な情報が必要な理由も示している。次の変化が現在の面だけでなく一つ前の面にも依存するなら、「表」だけでは完全な状態ではない。たとえば \((T,H)\)、つまり「一つ前は裏、現在は表」のように状態を広げる必要がある。
力学における実用的な状態の定義はこうなる。法則を与えたとき、次の一歩を決めるのに必要な情報である。
決定論と可逆性は同じではない
決定論的な法則では、現在の各状態に対して次の状態が一つに決まる。可逆な法則ではさらに、現在から一つ前の状態も一意に取り戻せる。
先ほどの反転規則は両方を満たす。では、表も裏も次の一歩で表になる規則はどうだろう。未来は確定しているが、現在が表だと分かっても、その前が表だったのか裏だったのかは分からない。情報が失われるため、この規則は可逆ではない。
古典力学の基本模型の多くは可逆な時間発展を使う。十分に完全な状態が分かれば、前向きにも後ろ向きにも一意に発展させられる。ただし、可逆性は時間反転対称性と同じではなく、散逸や速度依存の作用を含む有効法則には別の注意が必要である。日常の巨視的な不可逆性は主として統計的なもので、粗視化によって摩擦や熱に関わる膨大な微視的自由度が見えなくなっている。
決定論的であっても、有用な予測がいつまでも続くとは限らない。初期状態のわずかな誤差が大きくなることがある。法則は正確でも、状態の測定は完全ではない。「未来が現在から決まる」とは数学模型についての主張であり、あらゆる出来事を無期限に予報できるという意味ではない。
コインから粒子へ
直線上を動く粒子では、位置 \(x\) だけでは足りない。同じ点を、二つの粒子が反対向きに通過することもある。初等的なニュートン力学では速度 \(v\) を加え、状態を
と書ける。
三次元を動く粒子では、位置と速度はベクトルである。
加速度は速度の変化率である。
ここで「変化」が重要になる。円運動では速さが一定でも、向きが変わり続けるため、速度ベクトルは変化している。
ならば、
は円の接線方向を向き、
は中心を向く。
多粒子系の状態には、各粒子に対応する変数をすべて並べる。可能な状態すべての集合が状態空間である。ハミルトン力学で位置と共役運動量から構成する空間が位相空間である。標準的な運動エネルギーをもち、速度依存ポテンシャルのない単純な直交座標系の粒子なら \(mathbf p=mmathbf v\) となる。より一般には正準運動量と力学的運動量が異なることがあるため、位相空間は運動量を用いて定義し、速度と運動量を常に交換可能なものとして扱わない。
三つの短い確認問題
答えを見る前に解いてみよう。
- 三状態系が \(Ato B\)、\(Bto C\)、\(Cto A\) に従う。\(B\) から始めて五ステップ後はどの状態か。この法則は可逆か。
- プログラムが現在位置と向いている方向に応じて、左右どちらかへ一マス進む。位置だけで完全な状態になるだろうか。
- \(mathbf r(t)=(t^2,3t,2)\) とする。\(mathbf v(t)\) と \(mathbf a(t)\) を求めよ。
短い答え合わせ:
- \(Bto Cto Ato Bto Cto A\) なので答えは \(A\)。各状態に前の状態が一つだけあるため、法則は可逆である。
- 位置だけでは足りない。向きも含めた \((x,text{向き})\) が適切な状態になる。
- \(mathbf v(t)=(2t,3,0)\)、\(mathbf a(t)=(2,0,0)\)。
この講義の学び方
まず Stanford公式の第1講 を見てから動画を閉じ、自分の記号でコインの議論を再現してみよう。決定論と可逆性が異なる理由を説明し、円運動のベクトルも読み返すだけでなく自分で導出する。
問題演習には MIT OpenCourseWare 8.01 の課題 が使える。ベクトルや運動学をもう少しゆっくり確認したいときは、OpenStax University Physics もよい参考になる。
私はサスキンド講義の文字起こし、字幕、ノート、TeX、PDFを検索できるアーカイブも保守している。講義を見た後で特定の箇所を探すときに便利だが、自動生成された補助資料はあくまで案内であり、公式動画の代わりではない。
自分で所有する講義なら、バイリンガル講義パックで同じ資料優先の流れを最長20分の録画に適用できる。一つの対象言語を選び、確認可能な文字起こし、ポケット学習冊子、字幕、プレビュー映像をまとめる。
2019年の元記事は「State」という一語だけだった。今回の記事はStanford公式の第1講に沿って再構成し、最初の公開日はそのまま残している。
